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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)7277号 判決 1969年5月28日

原告

寺谷幾次

被告

黒沢四郎

主文

1  被告は、原告に対し金二四万三七〇七円およびこれに対する昭和四三年七月一二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

2  原告その余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、これを四分してその三を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

4  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の申立

一、請求の趣旨

1  被告は、原告に対し金八一万四八九五円およびこれに対する昭和四三年七月一二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言

二、請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

との判決

第二、当事者の主張

一、請求の原因

(一)  事故の発生

原告は、次の交通事故によつて傷害を負つた。

なお、その際原告はその所有する後記被害車を損壊された。

1 発生時 昭和四二年九月一六日午後七時一五分ごろ

2 発生地 東京都新宿区西落合三ノ二ノ一一先交差点(以下、本件交差点という。)

3 加害車 普通乗用自動車(練馬五む一三二三号)

運転者 被告

4 被害車 自転車

操縦者 原告

被害者 原告

5 態様 原告は、被害車を操縦して本件交差点を西から東に向つて進行中、同交差点を北から南に向け進行してきた被告の運転する加害車と接触して路上に転倒させられた。

(二)  責任原因

被告は、次の理由により、本件事故によつて生じた原告の損害を賠償する責任がある。

1 被告は、加害車を所有しこれを自己のために運行の用に供していたものであるから、人損について自賠法三条による責任。

2 被告は、加害車を運転して本件交差点を南進するにあたり、同交差点を被害車を操縦して東進中の原告を認めながら漫然と進行した過失があつたから、物損について不法行為者として民法七〇九条の責任。

(三)  損害

1 人損

原告は、本件事故により右側頭部打撲、腰臀部打撲、上顎歯損傷等の傷害を負い、昭和四二年九月一六日から同年一〇月二一日まで松原外科医院に入院し、同医院を退院後も現在に至るまで財団法人社会福祉友の会西落合診療所等に通院して治療を受けた。

(1) 治療費 金一万三二九五円

イ 脳波検査料 金四一四〇円

ロ 上顎歯治療費 金七五〇〇円

ハ 右西落合診療所治療費 金一六五五円

(2) 休業損害 金四九万五〇〇〇円

原告は、植木職として一ケ月平均二五日稼働し、日額金二二〇〇円の収入を得ていたが、右治療に伴い、昭和四二年九月一七日から昭和四三年六月一六日まで休業を余儀なくされ頭記の収入を得ることができなかつた。

(3) 慰謝料 金二〇万円

原告の本件傷害による精神的苦痛を慰謝すべき額は、前記の諸事情に鑑み金二〇万円が相当である。

2 物損

被害車修理代 金六六〇〇円

3 弁護士費用 金一〇万円

以上により、原告は金七一万四八九五円を被告に対し請求しうるものであるところ、被告はその任意の弁済に応じないので、原告は弁護士たる本件原告訴訟代理人にその取立てを委任し、弁護士費用として金一〇万円を支払うことを約した。

(四)  結論

よつて、被告に対し、原告は金八一万四八九五円およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四三年七月一二日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。なお、原告は、自賠法一六条の賠償額の支払いとして金一〇万円を受領し、これを前記1(2)の休業損害に充当したものである。

二、請求原医に対する答弁

第(一)項中、被害車を損壊したことは否認するが、その余の事実は認める。

第(二)項は認める。

第(三)項中、1(1)イは認めるが、その余の事実は争う。

第(四)項の損害充当関係は認め、他は争う。

三、抗弁

(一)  一部弁済

被告は、原告の前記入院中の費用を次のとおり支払つている。

イ 松原外科医院の入院治療費 金一七万五五〇〇円

ロ 附添看護料 金三万八七二〇円

ハ 氷代 金三〇〇〇円

ニ 雑費 金二七六〇円

計 金二一万九九八〇円

(二)  過失相殺

原告は、飲酒酩酊のうえ無灯火で被害車を操縦し、東西に通ずる道路の西方からそれと南北に通ずる大通りとの交差点に飛び出して東進したものであるから、本件事故発生については原告にも過失があるというべく、賠償額の算定にあたつては原告のこの過失を斟酌すべきである。

四、抗弁に対する答弁

(一)  一部弁済について

不知

(二)  過失相殺について

否認する。しかも原告は手を挙げて進行していたものである。

第三、証拠関係〔略〕

理由

一、(事故の発生および被告の責任)

請求原因第(一)、第(二)項は、被害者の損壊の点を除き当事者間に争いなく、〔証拠略〕によれば、原告は、本件事故によりその所有する被害車を損壊されたことが認められる。右認定に反する被告本人の供述はにわかに措信できないし、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

したがつて、被告は原告が本件事故によつて蒙つた損害を、人損については自賠法三条により、物損については民法七〇九条により賠償する義務がある。

二、(損害)

1  治療費

原告が脳波検査料金四一四〇円を支出したことについては当事者間に争いがない。そして〔証拠略〕によると、原告は本件事故により右側頭部打撲傷、腰臀部打撲傷(頭痛および頸部硬直症)の傷害を負い、昭和四二年九月一六日から同年一〇月二一日まで松原外科医院に入院し、同医院を退院後は昭和四三年九月末日まで社会福祉友の会西落合診療所に通院して治療を受け、その費用として同診療所に金一六五五円を支払つたことが認められる。原告は、本件事故により右傷害の他、上顎歯損傷の傷害を負い、その治療費として金七五〇〇円を支出した旨主張する。しかしながらこれに符合する〔証拠略〕は〔証拠略〕に照らし採用できないし、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

2  休業損害

原告が植木職として一カ月平均二五日稼働し、日額金二二〇〇円の収入を得ていたが、前記傷害のため昭和四二年九月一七日から昭和四三年六月一六日まで休業せざるを得なかつたので、その間の収入金四九万五〇〇〇円を得られなかつたことが〔証拠略〕により認められる。

3  慰謝料

原告の前記傷害の部位・程度、原告の後記過失その他諸般の事情を考慮すると、本件事故による原告の精神的苦痛に対する慰謝料は金一七万円とするのが相当である。

4  被害車修理代

原告が本件事故により被害車を損壊されたことは前記のとおりであり、〔証拠略〕によれば、原告は昭和四二年一〇月二六日野沢自転車店にその修理代として金六六〇〇円を支払つたことを認めることができる。

三、(一部弁済)

〔証拠略〕によると、被告は原告の前記入院中の費用(前認定二1とは別のもの)を次のとおり支払つていることが認められる。

イ  松原外科医院の入院治療費 金一七万五五〇〇円

ロ  附添看護料 金三万八七二〇円

ハ  氷代 金三〇〇〇円

ニ  雑費 金二七六〇円

計 金二一万九九八〇円

四、(過失相殺)

〔証拠略〕によれば、本件交差点は、南方、山手通り方面の北方、練馬方面に通じる・歩車道の区別のある車道の幅員一六・六五メートルのアスフアルト舗装道路と同交差点から南西および北西にそれぞれ伸びる・ともに歩車道の区別のない幅員六メートルの非舗装道路と同交差点から東南に伸びる歩車道の区別のない幅員九メートルの道路とが交わるいわゆる五差路交差点であつて、交通整理が行われておらず、いずれの道路からも建物のため左右の見通しが困難である。原告は日没時以後であるのに無灯火のまま被害車を操縦して右交差点から南西に伸びる非舗装道路から同交差点に進入し、南北道路を練馬方面から山手通り方面に向つて進行してくる被告運転の加害車を練馬寄り約三〇メートルの地点に認めながら被告の方で原告を認めて徐行してくれるものと即断して同交差点から南東に伸びる道路に入るべく同交差点を東進したことが認められる。原告本人の供述中、本件事故当時は夕方でもまだ明るかつたが、原告は被害車の灯火をつけていた旨および原告は同交差点を進行中手を挙げていた旨の部分は、証人小川二三の証言および被告本人の供述に照らし信用できない。なお、被告は、原告は飲酒酩酊のうえ被害車を操縦して本件交差点に飛び出した旨主張し、証人小川二三の供述中にはそれに符合する部分があるが、原告本人の供述によれば、原告が酒を飲んだのは事故の三時間位前でそれもコツプに一杯であり、酒に強い原告に本件事故時までアルコールの影響を与える程の量ではなかつたことが認められる事実に照らすと、右供述は措信できない。

したがつて、本件事故の発生については原告にも無灯火および安全不確認の過失があるというべく原告のこの過失は賠償額の算定にあたつて斟酌されなければならない。そして原告の右過失と被告の過失を対比するときはおよそ五対五とするのが相当である。ところで原告の本件事故による人損中の財産的損害は前記二1・2および三のとおり総額金七二万〇七七五円であり物損は前記二4のとおり金六六〇〇円であるから、これを前記割合により過失相殺すると、原告が被告に請求しうる人損中の財産的損害は金三六万〇三八七円であり、物損は金三三〇〇円である。そして被告は前記三のとおり原告の入院中の費用として合計金二一万九九八〇円を支払つているから、これを右人損中の財産的損害から控除すると(身体侵害に基づく損害賠償請求権は一個であるから、いわゆる充当の問題は起らない。)、その残額は金一四万〇四〇七円になる。

五、(賠償額の支払いの受領)

原告が自賠法一六条の賠償額の支払いとして金一〇万円を受領したことについては当事者間に争いない。そこで前記人損(財産的損害残額と慰謝料の合計)金三一万〇四〇七円からこれを控除すると、その残額は金二一万〇四〇七円である。

六、(弁護士費用)

以上のとおり、原告は被告に対し金二一万三七〇七円の賠償を求めうるところ、被告が任意の弁済に応じないため原告が弁護士たる本件原告訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任し、弁護士費用として金一〇万円を支払うことを約したことは弁論の全趣旨から明らかであるが、本件事案の難易、前記請求認容額等本訴にあらわれた一切の事情を斟酌すると、本件事故と相当因果関係のある損害として被告に負担さすべき弁護士費用はうち金三万円とするのが相当である。

七、(結論)

よつて、原告の被告に対する本訴請求のうち金二四万三七〇七円およびこれに対する訴状送達の翌日であることが本件記録上明らかな昭和四三年七月一二日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分は理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 倉田卓次 福永政彦 並木茂)

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